グローバル都市間競争力を高める都心居住

今回のテーマは『都心に住む』です。既存の商業・オフィスビルの住宅への用途変更によるバリューアップについて。

クアラルンプールの繁華街

最近までマレーシアの首都クアラルンプールに都心居住し、日常生活を過ごしていました。日本でいえば六本木ヒルズ界隈の都心居住イメージです。そこでは、仕事はもちろん、ショッピングモール、レストランバー、アイコニックタワー、都市公園など魅力的な生活コンテンツを徒歩圏内で利用できるコンパクトシティ内で生活し、さらに近隣に暮らす日本人コミュニティと気軽にご近所付き合いできるなど、いままで日本では体験したことのない魅力的なライフスタイルを過ごしました。その視点で、日本の都市課題解決に効果的な空間づくりについて提案したいと思います。

日本の大都市では、従来の大規模再開発が行われ、既存の商業・オフィスの空室率の高さとスクラップ&ビルド手法による地球環境負荷について社会問題となっています。
一方、環境負荷や初期投資の軽減、工期短縮に配慮した既存ストックを利用促進する事例や行政支援なども増え続けています。
そこで、上記を組み合わせた発想、『都心の商業・オフィスビルを用途変更して都心に暮らす』ための建築的手法について紹介します。

スケルトンは活用、インフィルは更新

リノベーションによるオフィス商業ビルから住宅へ用途変更する場合、効果的な手法は、できるだけ既存を利用する前提で必要機能を適時アップデートするのがスケルトン・インフィル(SI)です。スケルトンは柱・梁・床・壁・屋根の主要構造部、インフィルは、内部空間。この建築的手法は、数十年後の建て替えニーズを含む新築建築計画にも共通しています。

国土交通省 スケルトン住宅をつくる指針より

スケルトン部分は、建築規制や建物解体による廃棄物処理の環境コストが高いため、建物の主要構造部や外壁といった建物の外形を活用します。その際には、耐震診断、耐震補修などを最新の状況にアップデートしてバリューアップします。
インフィル部分は、再利用できる部分以外は撤去し、用途変更の必要に応じて都心居住の魅力をアピールできるコンテンツやアプリケーションを組み込むます。その際には、機械電気設備、維持管理、オーナー・ユーザーサポートシステム、Web3.0などを建築プログラムに組み込み、時代ニーズに合わせたアップデート可能なシステムとしてバリューアップします。

斜線制限のある高層階スケルトン
柱と壁を残したリノベーション

空間ブランディング戦略

建築用途の変更は、従来の建物タイプとは異なる機能、プランニング、空間構成により、独自性の高いブランドを構築できます。

都心居住ライフスタイルの例としては、

・低所得者層向け:ドミトリー、ケアハウス
・中間所得層向け:ラグジュアリーな共用スペースのあるシェアハウス、コンドミニアム
・富裕所得層向け:個人で専有できる別荘、大邸宅といった都心居住のラグジュアリー住宅など

いずれの場合も、海外ユーザー向けのエアビーアンドビー(ABNB)やSNSなどを利用したマッチング機能やマーケティング手法を組み込みます。

ペントハウス付き邸宅
スケルトンを活かしたリビングルーム

都心居住で企業の社会課題解決へ

魅力的な都市居住を可能とするプロジェクトは、人口減少、少子高齢化、グローバル化などの社会課題を解決するチャンスです。特に既存不動産の用途変更は、大規模再開発がもたらす空きビル問題のみならず、郊外の空き家、空き地、モビリティ問題も含めて、サスティナブルな脱炭素社会を実現するためのコンパクトシティを既存都市のリソースを活用しながら推進できます。社会課題解決手法として時代に適合した手法であるだけでなく、場所性、利便性、空間性、グローバル化、地域性など都市間競争力向上のための新しい建築コンテンツとして注目です。

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